東京高等裁判所 昭和31年(う)1811号 判決
被告人 浜田要
〔抄 録〕
控訴趣意第一に対する判断。
被告人に対する昭和二九年一一月一八日附起訴状に記載されている公訴事実及び罰条並びに昭和三〇年一月二七日原審第三回公判廷において検察官のなした同年同月二五日附「訴因及び罰条の追加請求書」と題する書面による訴因及び罰条の追加は所論摘録のとおりである。しかしながら、公訴提起の効力は当然事件の全部に及ぶのであつて、起訴状の摘示にもれた部分については、公訴事実の同一性を害しない限度において検察官の訴因及び罰条の追加請求によりこれを審判の対象とするのであつて、この理は起訴状記載の犯行と直接牽連犯の関係に立つ訴因のみならず、右訴因とさらに牽連犯の関係、すなわち起訴状記載の犯行と順次に手段結果の関係に立つ訴因についても同様と解すべきである。本件についてこれをみるに、所論の有印公文書偽造たるや、原判示事実の冒頭に示されたごとく、被告人が偽造に係る外国銀行発行名義の弗小切手を真正のように装つて、日本円との交換を受けることにより、金員を騙取しようと企図していたが、相手方を一そう信用させるため、外国人登録証明書を偽造し、これを使つて右企図を実現しようと考えてなされた所為であつて、すなわちその行使の目的は、本件起訴状記載の金員騙取の欺罔手段に供するにあつたのであつて、現にその目的とおりに右起訴状記載の偽造有価証券と同日時同場所において、同一の相手方に対していずれも真正なもののように装つてこれらを順次呈示行使した上金員騙取を遂げたのであるから、本件有印公文書偽造及びその行使の各所為と起訴状記載の詐欺とは順次に手段結果の関係にあるのみならず、右偽造公文書と起訴状記載の偽造有価証券の各行使は同一の機会において同一詐欺行為の手段とて併用せられたものであるから、右四つの訴因は同一公訴事実の内容をなすものであつて、所論のごとく訴因により共犯者の異つていることはなんら、公訴事実の同一性をそこなうものではない。しからば、前説示によつて明らかなごとく所論検察官の訴因及び罰条の追加請求は公訴事実の同一性を害するものではなく、これを許して審判の対象とした原審の措置はもとより正当であつて、所論のごとき審判を受けない事件について判決をし、又は訴訟手続に法令の違反が存するものではない。であるから所論は排斥するの外なく、該論旨は理由なきものである。
(中野 尾後貫 堀真)